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2016年12月30日 (金)

指先の選挙戦


2000年代に入って多くのものがデジタル化してきた。

買い物、映画、TV番組もボタン一つですぐ手元に届くようになり、
それに伴うマーケティングや広告も大きく形を変えてきた。

選挙運動でも例外ではない。
1920年代ラジオを中心に繰り広げられていた選挙活動はTVに場所を移し、
今はソーシャルメディアが主流になった。

候補者達はただ自分たちの知名度を広めるだけでなく、
いかに自分が”地に足の付いた”人間で、
”有権者と同じような”感覚の、
”親しみやすい”人物であるかを見せる場として、
また有権者とのコミュニケーションツールとしてソーシャルメディアを選んでいる。

今年11月の選挙後、大きく取り上げられているのがメディア、もといソーシャルメディアのあり方だ。

米報道機関の”Politico”では2015年9月の段階で”How Social Media is Ruining Politics(ソーシャルメディアはどのようにして政治を破壊しているか)”という仰々しいタイトルの記事を発表した。
PoliticoのジャーナリストNicholas Carrは、
ソーシャルメディア上ではメッセージが感情的であればあるほど素早く拡散され、また長い時間世間の関心を惹くことが出来るが、しかしそれが行きすぎると扇動政治家のそれになってしまうという。
いわば諸刃の剣だ。
それが良い内容であれ悪い内容であれ、何か爆発的なものをもっている人間が、
これからのソーシャルメディア選挙時代には向いているのだいう。

一方でヒラリー・クリントンやジェブ・ブッシュなど経験のある政治家は、この移り変わりに順応するのに長い時間を要したと指摘している。
波風の立たないような”当たり障りのない”、悪く言えば”bland(つまらない)”な投稿ばかりが目立ち、思ったように話題にならなかったのだ。
しかし選挙メディア媒体の移り変わりにより、候補者が予想外の窮地に陥ることは珍しくないとCarrは言う。

例えば1960年のニクソンとケネディの討論をラジオで聞いた有権者にとって、ニクソンの当選は確実だった。しかしテレビで視聴していた有権者にとっては、ケネディが勝ったように見えたという。
この時のニクソンの敗因は、彼はいまだにラジオの時代にいると思っていたことだ。
彼は、有権者は”彼が何を言うか”を気にしているのであって”彼の立ち居振る舞いや見栄え”に関しては全く感心がないと信じていたのだった。

現代の選挙戦でも同じことが言えるという。
候補者達はいまだにTVの時代にいると信じ、TVを見ている有権者に向けての力強いキャンペーンを展開している。彼らはいまだに、ソーシャルメディアはTVで放送されたことへの”補足”に過ぎないと思っているのだ。
ニュース番組もまた、TV時代に取り残されているとCarrは言う。
その時起きたことを断片的に流し、その瞬間瞬間で話題作りをするソーシャルメディアに対し、ニュース番組はいまだに”時系列に”報道することを良しとしている。
例えソーシャルメディア上であっても彼らは常に時系列に並べて報道しようとするため、
その瞬間の世間の反応やニーズと上手くかみ合っていないという事態が起こるのだ。

その点、次期大統領のトランプは、全く逆だった。
トランプ陣営のデジタルディレクターは、資金集めで一番大きな役割を果たしたのはFacebookであったと述べている。(Lapowsky)
最後の一月、クリントン陣営が2億円もの金額をTV広告につぎ込んだのとは裏腹に、トランプ陣営はその半分も投資しなかったという。
それは彼の陣営がキャンペーン媒体のメインとしてTVではなくオンラインを選んだからだ。
TVとは違い、オンラインでの投稿では人々がどのようなものに興味をもっているのか、即座にフィードバックを貰うことが出来る。それにより、ターゲット層にもっとも適した記事だけを選りすぐって投稿出来るようになるのだ。
トランプの政策や人となりを好きか嫌いかは別にしても、彼のチームのデジタルキャンペーンの巧さには目を見張るものがあるし、これが選挙運動の未来なのだと言わざるを得ないだろう。
(ただし、トランプのツイッターの使い方はかなり雑であり、間違った内容を堂々とツイートしたりしているので決して褒められたものではない。”年寄りに新しいおもちゃを持たせるとこうなる”という感じだろうか・・・)

ついでだから言っておくと、アメリカでは選挙カーなどという非効率で環境にも悪いような悪しき風習はない。

ソーシャルメディアの影響力の大きさが浮き彫りになった今回の選挙を終え、”時代の流れ”だけでは片付けられない様々な問題が残されている。
例えば、コメディアンのJohn Oliverは自身のショーの中でメディアの危険性を訴えた。
極端すぎる偏向報道だけでなく、虚構ニュースの蔓延も問題であると述べた。
今回の選挙では、トランプ、クリントン双方についていくつもの嘘のニュースが書かれ、真偽を確かめない読者によって膨大な数が拡散されたという。
ソーシャルメディアが政治に及ぼす影響は随分と前から懸念されていて、ドイツのメルケル首相はソーシャルメディアサイトがどのようにしてニュースのランク付けをしているのかを明らかにしたいとの考えを表明しているし、アフリカのある国では選挙前にはFacebook, WhatsApp, Twitterの使用を禁止するところもあるというから驚きだ。(Mozur and Scott)
Carrは”ソーシャルメディアはいままでのどのメディアよりも網羅的で支配的である”と述べ、Facebook, Twitter, Googleらのソーシャルメディアはユーザーが受け取るメッセージを規制するだけでなく、ユーザーの反応までもを規制すると指摘した。
ソーシャルメディアの脅威については、あのエドワード・スノーデンも警告している。(Democracy Now!)(Conger)


余談だが、アメリカ国民の政治に対するアプローチは興味深い。
以前もこの記事で書いたように、エンターテイメント色を強く出してくる。
リベラルなコメディアンたちはこぞって政治をネタにし、セレブリティたちは臆することなく自分の政治感を披露する。
それが良いにしろ悪いにしろ裏でお金が動いているにしろ(かどうかはわたしの知るところではないが)、若い層の政治へ対する関心を煽るのには十分だと思う。
(と感じるのはわたしがロサンゼルスというかなりリベラルな土地にいるからというのももちろんあるのだろうけれども)


こうしてソーシャルメディアはニュースソースとしての役割を担い始めたわけだが、
先に述べたようにその姿勢は支配的であり、目に見えないさまざまな制御がある。
例えばFacebookには”Trending”という項目があり、
“人々が話題にしてるとされる”トピックが勝手に、一番目に付くところに表示される。
例えばだが、このトピックたちは本当に話題になっているトピックなのだろうか?
Facebookが流行らせたいトピックを、わざと前面に持ってきているのではないだろうか?
Facebook の創設者マーク・ザッカーバーグは選挙後、”Facebookは選挙結果となんの関係もない”とのコメントを出したが、果たしてそれはどうだろう?
ザッカーバーグ氏は、Facebook上の虚構ニュースはほんの一握りであり、
選挙に影響を及ぼすなんてばかげている(“it is a pretty crazy idea”)とし、Facebookが人々に発言する場を与えられることを誇りに思っていると述べた。

確かに、ソーシャルメディアの登場によって”声を上げること”は昔よりもずっと簡単になったし、ソーシャルメディアで取り沙汰されることによって問題視され、世論が良い方向へ動いた例もある。
しかしFacebookが実際どれくらいの影響力を持っていたかはさておき、わたしを含め読み手は多かれ少なかれバカなのだ。
皆が皆ザッカーバーグ氏が言うような高尚な思いを持って声を上げ、ニュースの拡散をしているわけではないし、高いメディアリテラシーを持ってひとつひとつの記事を丁寧に読んで分別する知識やら倫理道徳があるわけでもないのだ。
ソースの確認も大してせずに、過激なヘッドラインだけを読んで感情的に拡散する人なんてごまんといるだろう。
たいして考えもなく押したLikeボタンやRT(リツイート)が積み重なり、指先ひとつで国の未来が左右される時代になるだなんて、誰が想像しただろう?


ソーシャルメディアでニュースを見つける上で一番気を付けるようにしていることは、必ずソースをチェックすることだ。
それがどんなに良く書かれたヘッドラインや記事であっても、仲良しの友達が拡散していても、だ。これは大学在学中の論文書きやリサーチで学んだソースの識別方法が役に立っていると思う。
インターネットが便利になればなるほど、ユーザーひとりひとりの”メディアリテラシー”が重要になってくるのは、なにもアメリカに限った話ではない。
日本でも、災害が起こるとツイッターではさまざまな噂やデマが飛び交い、それを分別無く拡散されてしまうことが問題になった。
ソースを確認することもなくただ良かれと思って拡散する人や、面白がって完全なデマをまるで本当のことのように投稿する人など、本当に”誰がどこでどういう経緯や意図で”情報を拡散するのかまったくわからない時代なのだ。
また、未成年による”悪ふざけの域を越えた”投稿が物凄い勢いで拡散、非難されたりするのも最近よく目にする。この場合ツイート主の常套句は「こんなことになるなんて思わなかった」である。

そんなことを書いているうちに、米オンラインニュースサイトThe Interceptがアメリカ時間で今日29日、虚偽のニュースについての記事を発行した。
要約すると、
イギリスの大手一般新聞であるThe Guardianのライターが、外部の第三者ジャーナリストとWikiLeaksのジュリアン・アサンジのインタビュー内容を”大幅に湾曲、要約して”使用した上、その誤った情報が支持者によってどんどん拡散され、実際にインタビューをしたというジャーナリストの異議を唱える声には全く耳も傾けられないという状態になったという話だ。

The InterceptのGreenwald氏は、The Guardianは素晴らしいジャーナリズムを見せる力があると述べた上で、Wikileaksについてのこととなると同新聞社とアサンジとの個人的な確執が浮き彫りになってしまうことが今回の騒動の一部であるとした。

また、記事を書いたThe Guardianのライター Ben JacobsとWikiLeaksの間で起きた過去の騒動も引き合いに出し、”WikiLeaksについての記事で正確さや公平さを求めるのなら、Ben Jacobsは最後の人間だ“と述べている。
虚偽のニュースに立ち向かい根絶を目指すには、
"自分の嫌いなものに対しての虚偽のニュースは糾弾するが、自分の好きな(または自分の政治観念をサポートする)ものについては虚偽だとしても認める"
というような選択的な態度を改める必要があるとGreenwald氏は結んだ。

(ちなみにThe Interceptは昨今珍しいほど”真のジャーナリズム”が感じられるニュースサイトだ。エドワード・スノーデンがNSAを内部告発した記事も、このサイトから出たものある。英語が出来る方は是非チェックしてみてほしい。 )



趣味の延長のような位置づけだったソーシャルメディアが、たくさんの人の生活の一部になり、社会の一部になっている。
良くも悪くもたくさんの人が利用しその情報を拡散出来るというのは、今までにないコミュニケーションの方法だ。
Greenwald氏の言うように、例え虚偽のニュースに嫌悪感を持ち、根絶しようと努力をしているつもりでも、自分の意見と一致するそれには甘くなってしまうということだってある。溢れる情報の中から正しいものを選び取る力は、現代社会においてはもはや必要不可欠なサバイバルスキルだ。

これを読んでいる皆さんにとって、ソーシャルメディアは薬だろうか?それとも毒だろうか?




References:

Carr, Nicholas “How Social Media Is Ruining Politics” (Politico)
http://www.politico.com/magazine/story/2015/09/2016-election-social-media-ruining-politics-213104

Conger, Kate “Snowden discusses Facebook’s fake news controversy” (Tech Crunch)
https://techcrunch.com/2016/11/15/snowden-discusses-facebooks-fake-news-controversy/

Greenwald, Glenn “The Guardian’s Summary of Julian Assange’s Interview Went Viral and Was Completely False” (The Intercept)
https://theintercept.com/2016/12/29/the-guardians-summary-of-julian-assanges-interview-went-viral-and-was-completely-false/

Lapowsky, Issie “Here’s How Facebook Actually Won Trump The Presidency” (Wired)
https://www.wired.com/2016/11/facebook-won-trump-election-not-just-fake-news/

Mozur, Paul and Mark Scott “Fake News in U.S. Election? Elsewhere, That’s Nothing New” (The New York Times)
http://www.nytimes.com/2016/11/18/technology/fake-news-on-facebook-in-foreign-elections-thats-not-new.html

“Snowden Warns Facebook Growing Too Powerful” (Democarcy Now!)
https://www.democracynow.org/2016/11/17/headlines/snowden_warns_facebook_growing_too_powerful